火災旋風の実験例 1

 東京都15号埋立地で行った大規模実験 (気象研究所相馬清二氏主導)
 元気象研究所の相馬清二氏は、被服敞後に発生した竜巻は広域火災と風の相互作用によって発生した火災旋風ではないかと考え、模型実験を行って、それまで50年以上にわたって信じられていた「竜巻は不連続線に伴って生じた」という説が誤りであったことを立証した。
 この現象は非常に複雑で、実験において完全に再現されたのは1970年代に、相馬清二氏が被服敞跡を1/2,500にスケールダウンして行った風洞実験と、15号埋立地(現在の若洲)で自然風を使って行われた1/100スケール(それでも一辺25mに及ぶ)の実験(当時学生だった斉藤孝三氏も加わった)の他には公式な記録が無い。残念なことにこの時は撮影に失敗したため相馬氏は詳細なスケッチを残した。
 最近地震時の防災が叫ばれ、多くのマスコミにも火災旋風が取り上げられたが、構造物によって人為的に火炎にスピンをかけ火災旋風様燃焼形態を作り出した例が多く、横風と燃焼のエネルギだけで平坦な場所に火災旋風を発生させる事は実現できていなかった。
火災旋風-1

関東大震災時に被服敞跡で発生した火災旋風の模型実験


相馬清二博士の指導により行われた
エタノールの蒸発が早いので、写真のようにパイプで複数のパンに同時に注入する


University of Kentucky
斎藤孝三氏提供
火災旋風-2

同上 点火後


University of Kentucky
斎藤孝三氏提供
火災旋風-3

同上

赤色発炎筒を焚いている。この後見事な火災旋風が発生したが、スタッフ全員我を忘れ、3台あったカメラのシャッターを誰も切ることが出来なかった。

University of Kentucky
斎藤孝三氏提供

 2005年12月建築研究所火災風洞で行った実験 (ケンタッキー大学斉藤孝三教授主導)
 2005年の年末、突然読売TVディレクターからり被服敞跡の火災旋風を再現できないかとの電話が舞い込んだ。実績が無かったためにケンタッキー大学斉藤孝三教授に急遽来日してもらい、年も押し詰まった12月28日、つくばの建築研究所に入った。斉藤教授も火災旋風の研究から長らく遠ざかり、本格的な大型風洞を使って実験した経験も無かったが、丸一日試行錯誤し調整したところ予想以上の大成果を挙げた。
 大火炎の旋風のみならず、被服敞跡に見立てた火災の無いエリアに竜巻が発生し、縦横無尽に動き回り周囲の木片を吹き飛ばす様子を見事に捕らえることに成功した。相似則によっても裏付けられ、学術的にも非常に価値がある火災旋風の模型実験といえる。


相似則、実験結果については、下記本実験に基づいた論文を参照されたい。
 この実験の模様は、2006年1月4日日本テレビ系列の「ザ・ワイド」の特集として放送された。7台のカメラを駆使した撮影で、真上から捉えた画像など貴重な資料を得ることができた。 裏話はこちら

動画
巨大な火柱の旋風 (YouTubeへリンク)
火の無いエリアに出現した熱風の旋風 (YouTubeへリンク)

本実験に基づいた論文
Can We Predict the Occurrence of Extreme Fire Whirls?
(Kazunori Kuwana, Kozo Sekimoto, Kozo Saito, Forman A. Williams, Yoshihiko Hayashi and Hideaki Masuda)
AIAA Jurnal Vol.45 no.1, 2007, pp.16-19
燃焼域で発生した火災旋風
高さは5mにも及ぶ。
実物換算 約20m
煉瓦が敷いてある部分の横幅は約3m、奥行き3.5m

風 奥より手前1m/sec
燃料 ノルマルヘプタン
燃焼域から離れた場所で発生した火災旋風(中央)。被服敞跡を襲ったのはこのタイプである。
木片が吹き飛ばされている。この中に可燃物があれば、炎の渦巻きとなる。

文献および今回の実験結果では中心部付近の風速は実物換算秒速70m(時速250km)以上となる。
人間が巻き上げられる事もあるし、灼熱したトタン板によって首を切断された人もいる。

箱の高さは約3cm
旋風奥で発光しているのは発炎筒
火災旋風は燃焼域の近くで発生し、減衰して消滅するものもあるが、風下側に数m流されるものもある。実物換算1km以上になる。
シュレッダーダストを風下側に撒いたところ、引火して旋風は炎に包まれた。

家のジオラマはTV撮影用にスケール無視
相似則に従えば高さ30mの巨大な家となる。

この中には火災旋風が簡単に入って来ない。大きな構造物は旋風の移動を妨げるのに効果がある。
燃焼域から離れた場所に火災旋風が発生している事が良くわかる。

煙が薄くなり撮影できるほど鮮明ではなくなったが、燃焼域から5m以上離れた場所まで渦が移動して来た事を確認している。

避難場所が校庭のような障害物のない広い場所である場合、状況によっては非常に危険な場所となる可能性がある。
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