火災旋風 The Fire whirls

 火災旋風
 火災旋風とは火災に伴って発生する竜巻である。火災による上昇気流と自然風との相互作用が主な原因と考えられるが、建造物の影響で発生する渦、ビルや山の風下に発生するカルマン渦によっても発生する。大規模な火炎の風下にも渦が生じ、旋風が発生することも知られている。炎を伴わず高温の空気だけが回転を始め、竜巻になる場合もあり、これも火災が原因の竜巻であり火災旋風の範疇に入れることが出来る。
 火災旋風には火炎、火の粉、燃え殻を含んだ熱風であり、高速の回転によって燃焼は加速され、また巻き上げた燃焼物、火の粉を近隣に撒き散らし、延焼を拡大する。炎を伴わない旋風も高温であり、呼吸によって肺が損傷を受け死亡する場合もあり、非常に危険である
 火災旋風は1970年代に気象研究所の相馬清二氏によって体系的に研究され、実験により火災の上昇気流と自然風との相互作用で発生することを証明した
 火災旋風の分類と事例
 火災旋風の実験例
 1970年東京都15号埋立地

 2005年建築研究所火災風洞

 2012年建築研究所火災風洞 


 2013年大規模屋外実験 

 2013年オーストラリアにおける大規模屋外実験  
 火災旋風発生のメカニズム (準備中) 
 火災旋風の抑制、防止、対処法 (準備中) 

 火災旋風の分類と事例  (分類は相馬博士に倣う)
1.被服敞跡型
  1.1関東大震災時の両国被服敞跡
 火災旋風は1970年代に気象研究所の相馬清二氏によって体系的に研究され、実験により火災の上昇気流と自然風との相互作用で発生することを証明した 9月1日 関東大震災時に両国陸軍被服敞跡を襲った火災旋風は、大惨事を引き起こし火災旋風の代表例として今日広く知られている。
 当時7万平方メートルの広大な空き地となっていた被服敞後には、火災の脅威から逃れようと約4万の人々が、自家より持ち出した家財道具と共にひしめき合っていた。そこへ3度火災旋風が襲い掛かり、15分弱の間に実に3万8千人の命を奪った。事故現場での樹木の切断の状態から、旋風の風速は時速80km以上と推定され、赤熱した金属や燃え盛る残骸、人間までもが巻き上げられ、そして再び避難民に降り注いだとの事である。
 生き延びたのは走り回って旋風から逃げ果せたもの、たまたま倒れ、その上に倒れ込んだ人の下になって高温から守られた人、隣の旧安田庭園の池、隅田川に飛び込み、降り注ぐ火の合間を縫って呼吸できた人に限られる。
 被服敞跡の空き地は3方を木造家屋に囲まれており、広場とそれを取り囲む可燃物の配置によって火災旋風が置きやすい条件になる。自然の横風も重要なファクターであり、弱からず強からず(秒速数m~十m程度)の風が吹いていることも必須の条件である。被服敞跡のように広場と可燃物の組み合わせによる火災旋風の例は多く、このような例を被服敞跡型火災旋風と呼ぶ。

実験例1 被服廠跡を模したL字火災域 日本TV 2005/12 ケンタッキー大学斎藤孝三教授の指導により行われた最初の実験 
実験例2 同上 火のない火災旋風を捉えた画期的な実験 2005/122
実験例3 日本TVの依頼により行われた実験 例1とほぼ同じ 2012
実験例4 同上 L字の縦棒(風向きに添う)を太くした 2012
実験例5 被服廠跡を模した初めての屋外実験 フジTV「ガリレオからの挑戦状」収録 栃木県佐野市 2013/5
実験例6 幅約50cmのミニ風洞で再現したL字火災域での火災旋風 関本技術士事務所実験室
  1.2.空襲による和歌山市中心部
 1945年(S20) 7月10日午前1時、爆撃機B-29の空襲時に焼夷弾によって市内随所に火災が発生し、延焼に伴いいくつかの火災旋風が発生した。この中で、もっとも被害が大きかったのは旧県庁跡の広場を巻き込んだものであり、748名が焼死した。被服敞跡型と考えられる。
2.ハンブルグ型
1943年7月27日深夜、イギリス空軍の700機を越える爆撃機がドイツ第3の都市、人口151万人のハンブルグ中心部に集中的に爆弾および焼夷弾を投下した。火災は市内のいたるところから発生したが、爆撃後1時間ほど経過した後、火炎が一箇所に集まり始め、火災域上の気流が回転を始め旋風となって行った。 この火災旋風は30分あまりハンブルグを蹂躙し続け、市街地は完全に燃え尽き死者は4万人を超えた。
 当夜のハンブルグの風はきわめて弱く、火災旋風が駆け巡ったような広場も無い。したがって被服敞跡型とは別形態の火災旋風と考えられ、ハンブルグ型と呼ぶ。
3.Dessens型
 1961年6月17日、フランスの物理学者Dessens氏が大火力バーナーによって積雲生成の実験を行ったところ、燃焼域の下流に火災旋風が発生し、次第に風下に流れていったが、同じ場所に何度も旋風が発生した。
 1965年5月23日、室蘭港においてノルウェーのタンカー、ヘイムバード号が接岸に失敗し積荷の原油が漏れ引火、爆発した。火は27日間燃え続け、このとき火災域の風下に火災旋風が発生した。これはDessens型と考えられている。
ヘイムバード事件
タンカー火災時に発生した火災旋風

University of Kentucky
斎藤孝三教授提供
左記模型実験
左記写真のタンカーに対応するのが右側の火炎、
火災旋風が左側に発生している

University of Kentucky
斎藤孝三教授提供
4.ブラジル草原型
 2010年夏、ブラジルの草原で発生した火災旋風がメディアで大きく報じられた。高い樹木のない草原発生した野火は風下側に延焼し、その最前線の火は長く連なり火線を成し、その火線上に火災旋風が発生した。火災旋風は火線上を移動しており、次々に新たな旋風が発生し移動していた。
 このタイプは草原火災では比較的良く観察されるようである。火線上に火災旋風が発生することが特徴である。
5.森林火災に伴う型
 山火事で火災旋風が起きることは以前より知られているが、2005年のカリフォルニア森林火災では多くの出現が記録されている。九州貫山の山火事で消火中に火災旋風が発生し、消防士が殉職している。火災に伴う火事場風の他、傾斜のある山地では複雑な風が吹き、局所的な風によって火災旋風が引き起こされるのではないかと思われる。
九州貫山山火事で発生した火災旋風の再現模型実験

University of Kentucky
斎藤孝三教授提供

6.カルマン渦型
 流れの中に障害物を置くと、その下流には周期的に渦が発生する。これはカルマン渦と呼ばれ、川に立てられた橋脚の下流では普通に観察できる。大規模なものでは壱岐、対馬等日本海に浮かぶ島々に冬の季節風が吹きつけ、下流に渦が発生し衛星写真でも観察する事ができる。雨の日に大型バスの後ろを走っていると、バス背面左右に渦が周期的に発生しているのを雨の飛沫によって観察できる。 ビル等の風下にも発生していることは容易に想像できるが、可視化できない場合がほとんどであるため、一般には気付き難い。
 1934年3月21日、凾館大火が発生し、2166名の方が無くなる惨事が起きた。このときも火災旋風がいくつも発生したと記録されているが、凾館山背面のカルマン渦に寄るものではないかと考えられている。

 
左写真 流れの中に置いた平板下流のカルマン渦によって引き起こされた火災旋風 カルマン渦自体は下流に流れるが、火災旋風は燃焼物のあるところに留まる

7.ビル風型
 ビル周辺で強風が吹くことは多くの人が経験し、落ち葉等が渦を巻いている様子も良く見られる。このようにビル等の構造物に風が当ると、構造物背面で渦が発生することが多い。この場所に火炎があれば容易に火災旋風となる。カルマン渦はより下流に発生し、周期的に発生消滅を繰り返し下流に移動する事が異なる。
 大規模になった例は私の知る限り無い。
左写真 L型建物を模し、L字に曲げた鉄板下流に発生した火災旋風

実験例 フジTV「ガリレオからの挑戦状」収録
栃木県佐野市の採石場で収録され、火災旋風は高さ10mを超えました。
 火災旋風に関する参考文献、資料
[1]模型実験の理論と応用
[2]S.Soma and K.Saito, Reconstruction of fire whirls using scale models, Combustion and Flame, vol.86; 269-284(1991)
[3]大震火災時における火災旋風の研究  昭和54年度東京都防災会議地震部会調査研究
[4]相馬清二 大火災に伴う竜巻(被服廠跡に生じた竜巻の発生に関する研究) 防災科学技術総合研究報告 大震時における都市防災に関する研究(追号), 1973, pp.39-56
[5]関本孝三 関東大震災における被服敞跡火災旋風の模型実験 日本機械学会熱工学部門ニュースレターNo.55
[6]関本他 ニュートン「地震火災が首都を焼き尽くす」 ニュートンプレス 2012,8 pp.108-115
[7]関本他 ニュートン臨時増刊「首都直下型震度7大震災予測」 ニュートンプレス 2012,10 pp.28-45 ([6]の再掲)
[8]関本他 東京新聞特集「生き抜く」 東京新聞 2012年11月1日朝刊

[9]関東大震災調査報告気象編(藤原咲平)/中央気象台編